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震える手で、夢の続きを

コーヒーを淹れる奴隷の指先はいつものように震えていた。ただの緊張ではないのでしょう。私にまた会えたという昂ぶり、そしてこれから迎えるセッションへの静かな興奮。そのすべてが、身体を通して滲み出ている。2ヶ月ぶり。けれどこの扉をくぐるのは幾度目でしょう。それでも、毎回が特別なもの。沈黙さえも甘やかに満ちる空気の中、奴隷はいつも通り、お土産を手に私の前に現れた。


久しぶりのセッション。どれが待ち望んでいたこの時間。会えなかった2ヶ月間の私の近況を聞きたくてたまらないといった様子で、床に座り、膝に手をつける。私はこの2ヶ月間、ひたすらに打ち込んだ仕事の話、新しいチャレンジの話を次々語る。それを自分のことのように楽しそうに、キラキラした目で聴いてくれる奴隷。この聞き上手な生き物と美味しいスイーツのせいで、どういう訳だか、まだ人に話すつもりではなかった、遠い夢の野望まで語ってしまった。私の近況を一通り話し終え、「そろそろ始めようか」と口にする。さっきまでの穏やかさとは一変。静かに熱っぽい空気へと変わる。奴隷の瞳にある歓びと期待、そしてわずかな畏れが一瞬にして交じり合い、奴隷の身体に宿っていく。ここから始まるのは、さらに深い夢の続き。

正座からゆっくりと崩れ落ちるようにして、冷たい大理石の床へと額をつけた奴隷の姿。室温は低く設定されていた。肌を刺すような冷房の風。床に平伏し、指先をぴたりと揃える奴隷。震えながらもじっと動かない。すぐ真ん前に立つ私を、奴隷は目にすることさえ許されず、ただ額を床に押しつける。
「星名様……お願いです……」
しぼり出すような声。震えた声帯から、懸命に言葉を繋ごうとしているのが伝わる。何度も繰り返してきたはずの所作のはずなのに、こうして再び私の前にいるという事実だけで、身体が制御を失い、思うように言葉を紡ぐことができない。言葉のたびに、奴隷の吐息が床に濡れ、額にじわりと汗が滲んでいく。たくさん伝えたい言葉があるけれど、全ての想いが「お願いします…」その一言に集約される。寒さに震えるのか、それとも欲望と恐怖がないまぜになっているのか。どちらでも構わない。私は無言のまま、ゆっくりとその周囲を回り込む。ヒールのかかとが床を打つ乾いた音が、静寂にくっきりと響く。その音だけで、奴隷の身体が微かに揺れる。欲しいくせに震える。震えるほど欲しい?ほんと、この生き物の言葉は、心底疑いがない。流暢に使われた言葉なんかより、ずっと想いが伝わってくる。こうした口先の鈍さが、私の奴隷たる所以とも思えてくる。ストーリーも誤魔化しも羞恥も、もう要らない。こんな実直さが、ドミサブを面白く感じさせてくれる。
パァンッと甲高い音が、静寂を切り裂くように室内に響く。それと同時に奴隷は私を見つめ、かすれた呻き声を漏らす。それがたまらなく愉しい。何度も何度も鞭の音が静かな部屋を射抜く。

今回は派手にやったわ。スパンキングラケットの痕?いいえ、痛みという名の快楽に支配されているという証。その証を今日もまた上塗りしていく。心の中の奥、誰にも触れられたことのない領域にまで、私の支配の証を刻みつける。
私はラケットを静かに床へ置き、青紫色に染まった太ももに手のひらを添える。指先で軽くなぞるたびに、奴隷の身体がビクリと跳ねる。網目模様までついてしまった皮膚に、さらに私の爪が突き刺さると、嬉しそうに叫ぶ奴隷。全てが私の意のままに。私が振り上げた鞭。思わず開いた足を閉じて仕舞いそうになる奴隷。条件反射は止められない。

ならば、完全に封じ込めて仕舞い。艶のない、深い黒の麻縄。使い込むほどに柔らかくなり、けれど本質的な“強さ”は失われない。まるで、私が仕上げてきた奴隷たちのようね。「動いてはいけないよ」その一言で、奴隷の肩がわずかにすくむ。息を止めたまま、私は無駄のない手つきで縄を広げ、奴隷の胸でクロスした両腕から縛り上げていく。静寂のなか、縄が床を這う音すら官能的に聞こえる。黒縄が肉に触れ、滑り、締まり、食い込む。奴隷の肌が薄く持ち上がり、すぐに圧されるように締めつけられていく。

微かに震える吐息。縛るだけ。痛みすら与えていないのに、もう身体は反応している。私は手早く肘のあたりを絞り上げ、上半身を完全に封じ込めた。さらに両足をそれぞれ一周、二周。それだけでは飽き足らず4周巻きつけ、上半身と結びつけ開脚状態で固定する。よく鳴く加工の施された縄は、汗ばんだ肌をしっかり締め上げながら、蠢く奴隷の動きに合わせてギチ…ギチ…と乾いた摩擦音を鳴らす。キツく縛られるほど、私の世界に取り込まれて逃げられない。その事実がまた奴隷を快楽へ誘い、縄の音は絶えず鳴り続ける。
「動いてはいけないと教えたでしょう」
無言のままうなづく奴隷。思い切りビンタをする。びくんと跳ねた奴隷に、緩みのない硬い結び目がさらに皮膚へ食い込む。私の縄は、命じられてもいないのに、忠実に“私の支配”を代弁しているみたいね。

言葉巧みな私の甘い言葉に誘われるがまま、私の精神世界に取り込まれてしまった芋虫は蠢き続ける。ギチ…ギチ…と擦れ合う音が部屋に響き、奴隷の皮膚にくっきりと縄の跡が残る。まるで、縄が生きているかのように、意思を持って奴隷の自由を奪っていく。
縄って、怖いわ。身体の外側にしか触れていないのに、簡単に身体のずっと奥深くを刺激し、心にまで到達してしまう。私はそう言いながら、奴隷の喉元へ手を添える。けれど、奴隷の体はびくりと跳ね上がり、再び縄がギチリと唸る。

「…あぁ…幸せです」という奴隷の切実な声を聞きながら、じっと眺めて楽しむ。静かな時間。私は履いていた革のブーツを脱ぎ、必死に呼吸をする奴隷の鼻へ押し当てる。身体いっぱいにブーツの暖かな空気を吸い込む奴隷。身体が小刻みに震えギチ、ギチ、とまた縄が鳴る。その音こそ私の支配の中で奴隷が生きている証でしょう。

黒縄に縛られたまま、震える奴隷へ素足を近づける。奴隷の身体にキツく絡みつく縄は動くことを許さない。けれど奴隷の口元は私の脚先へと自然に導かれるように、じり…じり…と近づいてくる。そんなに欲しいなら、喉奥まで感じさせてあげる。
「口を開けなさい」
その一言で、奴隷の顎がゆっくりと開く。口の中へ、私は遠慮もなく足の指をねじ込んだ。唇が反射的に閉じようとするけれど、私はぐっと奥まで押し込む。喉の奥がくぐもった音を立てて動いた。喉で私を感じなさい。ゆっくり、そして確実に、足指が奴隷の口内を侵していく。舌を押しのけ、奥へ奥へとねじ込む。涙目でびくびくと蠢き、苦しそうにごくりと嚥下する悦びの声が響く。ああ、幸せね!
顔を歪め、喉の奥で私の素足を受け入れながら、奴隷はただ黙々と私の足を味わおうとする。頬を赤らめ、目尻に涙を滲ませながら。自らすすんで幸福な苦しみを享受しようとする姿がいじらしい。わざと親指を動かし、奴隷を苦しめる。喉が詰まりそうになるたびに、奴隷の鼻から荒い息が漏れる。涙と唾液で濡れた顔。くぐもった呼吸音。そのすべてが、私への忠誠の証。ひたすらに喉奥へと刻みつけられた刺激。奴隷にとってずっと忘れられない記憶になってしまうことでしょう。

冷たく硬質な空気感と、支配と欲望が交錯するひと幕。明け渡した身体。浮かぶ傷痕。蕩けた目。そのすべて、今この場所にだけ生まれた狂った蝶々。私の掌の中でしか咲かせられない羽を、これからも何度でも。また、新しい“狂い”を教えてあげるから。愉しい時間をありがとう。

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