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壊れた先にある幸福

連日セッションの2日目の記録。累計、幾度目かの逢瀬。私のもとへ足を運び続けることで、私の思う奴隷たるに相応しく仕上がってきた。奴隷はいつも「星名様がお好きかと思って…」と、シンプルなスイーツが好きという私の好みをよくぞ覚えてくれて、私の好みドンピシャのお土産を持ってきてくれる。けれど今日はいつもと違う。今日は私がちょっとしたサプライズをしようと、ケーキの箱を携え部屋へ向かった。部屋へ入り、いつも通り私のジャケットを受け取ろうと手を差し伸べる奴隷へ、あとで一緒に食べようと言い、ケーキの箱を渡す。奴隷の顔がわずかに驚き、そしてそれ以上に嬉しそうにほころぶ。今日はゆっくりスタートしたいという奴隷のテンポ感に合わせて、私もまったりさせてもらおうと、セッション前にコーヒーを淹れてもらうことにした。いつもならコーヒータイムはセッション後。奴隷はいつも興奮で震えの止まらない手で溢しそうになりながらコーヒーを淹れてくれる。もちろん今日はすんなりと淹れていた。言うことを聞かない身体で懸命に頑張る様を眺めているのもおつなのだけれど、普段はちゃんと淹れれるのね、と当たり前だけどそんなことを思って眺めていた。テーブルを挟み、二人でケーキを口に運ぶ。互いにわかっている。これは束の間の平穏な時間。これから身体も心も荒れ狂わされるのに、それを忘れてしまうくらいの穏やかで心地の良い会話を続ける。天気、趣味、仕事、家族、古くからの友人のこと。まさかの大学の共通点もあったりと、温和すぎて笑ってしまいそうなほどの会話。こうして私と同じ“人間目線”で言葉を交わせる時間は、奴隷にとってはまるで夢心地で特別なものでしょう。「ごちそうさまでした。」と心のこもったお礼を私へ渡してくれる奴隷。それじゃあ、そろそろ着替えようかなと言った私の声で、空気が変わる。さあ、ここからさらに深い夢の時間が始まる。

(撮る前にうっかり一口食べられてしまった私の好物ミルクレープ)

シャワーから出てくると、いよいよ一変した空気。この空気の転換を何度も味わってきたことでしょうに、まだぎこちなさそうにソファーへ座る私の足元の床へ頭をつけお尻を突き上げる。昨日、私が尻に刻んであげた支配の証は、まだ熱を帯びたまま鮮やかな赤を灯していた。奴隷自身では直接目に触れることのない部分。触れなくても、目にしなくても、あの痛みが確かに奴隷の中に残り、私の支配を尊く感じているのでしょう。奴隷は自ら手を後ろに回しその痕跡を愛おしそうに撫でる。「まだ…ちょっと痛いです…でも…すごく、嬉しくて…」その声は微かに震えていたけれど、そこには確かな悦びがあった。奴隷にとって痛みは罰ではなく感謝。私に支配されている証を、身体が覚えている。そして奴隷はピシリと両手を揃えた。まるで祈るように、頭を垂れ、口元を震わせながら、必死に言葉を紡ごうとする。「あの…星名様のものとして…もう、ほんとうに、どうなっても構わないんです…だから…だから、どうか…もっと…星名様のそばにいられるように、調教を…お願い、します…」声は擦れ、言葉にならない言葉で想いを伝え、懸命に調教を乞う。

私は立ち上がり、ケースから愛用の一本鞭を取り出す。まずは奴隷に触れずに音を聴かせた。艶のある黒皮が空気を切る音と共に、室内の空気が一変するのがわかる。触れていないのに、視線を上げて奴隷を見ると、音に合わせて奴隷の背筋はシャンと自然と伸びてしまう。それはもちろん、そうしろと私が教えたこと。さもすれば、鞭音が身体に染みつき無意識で動いているのかも。いずれにせよ体の準備は万全ということでしょう。鞭の一打目。皮膚が裂けるような強烈な音と共にビクンと跳ねつかせる。反射的に漏れそうになる呼吸を飲み込み、代わりに「ありがとうございます!」と叫んだ。二打目、三打目と、間隔をあけて叩くたびに、奴隷の目に何かが宿っていく。苦痛と陶酔がないまぜになった、理性の境界線が溶けはじめる目。数ある奴隷たちとのセッションの最中、私は人間を忘れたその目を幾度となく見てきた。その中でもこの奴隷は、奴隷として“極上の堕ち切った目”をしている。

その目を確かめてから、私は静かに立ち上がり、棚の奥からレザーのフルマスクを取り出した。人間を辞めた奴隷の目の自由なぞ私に授ければ良い。深く艶のある黒レザー。まるで漆のように滑らかで、光を吸い込むようなその質感。頭にあてがうと奴隷はためらうことなく首を傾け、大人しく包まれるようにマスクの中へ吸い込まれた。やはり全頭マスクはすごい。奴隷の視界を奪うだけでなく、厚手のクッションのおかげで音までも遠ざけ、一瞬で非日常へと引きずり込む。すぐ隣に私がいて気配を感じていても、自分が今どこにいるのか、どこを向いて座っているのか、急にわからなくなってしまう。まさに“隔絶”という名の檻に閉じ込められてしまった。すぐ隣に私がいるのに、初めて孤独を感じたことでしょう。

暗闇の中、音もなく、方向感覚を無くしてしまう世界。目を開けても、光の欠片すら届かない。耳を澄ましても、私の息遣いひとつ聞こえない。それが、どれほど心細く、切実に“私を求める”感覚を掻き立てるのか。それでも、また新しいこの感覚に胸が高鳴ったことでしょう。普段は何気なく聴いていた私の足音すらご褒美のように感じられるはず。やはり何もないよりも、音でも視覚でもなんでもいいから、“刺激”が欲しいでしょう?私だって奴隷がだんまりしてしまっては、つまらないのよ。それでは心ゆくまでスパンキングラケットで肉を叩く音を聴かせてもらうわ。叩くたび、ラケットの低音で弾ける音と、くぐもった声がマスクの中から響いて、尻をあげ逃げようとする。足を踏みつけ制止し、さらに反対の足・脇腹を思い切り叩き込む。ぎゃあぎゃあ音を出しながら震える奴隷。やっぱり刺激がないより、ある方が良いのものよね。奴隷の身体に起こる刺激だけが、自分は一人じゃないと知らせる唯一の手がかりでしょう。十分叩き終えて、太ももにはくっきりと網目模様が浮き上がった。

ようやくマスクを外してあげると、ゆっくり目を開いて私を見て、顔がほっとしたようにほころぶ。視覚を頂けてよかったね。安心したのも束の間、次は縄を手に取る。まだ新しくて太くて、硬い手触りの黒縄。奴隷の身体へ沿わせ巻くたびに、彼の呼吸が早くなる。身体を絞られ、動きも制限され、私の力がくまなくと肌の上に刻まれていく。ギュッと身体を包み込むたび、所有物として解らせてくれる縄。胸の前で束ねるように固定された両手。まさに今、目の前にあるのに使えないことを痛感するでしょう。全てを私に明け渡した完全な無力。上半身を縛った後は下半身も。ベットへ寝かしつけ、ぴたりと閉じた両足を容赦なく強く縛り上げた。腰から足首まで、二本の脚はもはや一本の柱のように繋がれていく。



仕上げに、私は棘のついたローラーを手に取る。金属の冷たい感触と、無数の小さな棘。これを這わせれば、私の指一本一本が触れることと同じ。動きを封じられた奴隷の身体に当てがい、ゆっくり転がしていく。最初は指先から腕へ、脇腹、太腿へと。棘が皮膚をかすめるたびに、彼の身体は跳ね、わずかに軋むように歯を食いしばる。何度も何度も転がされる棘の痛みが、肉の奥まで染み込んでいく。それでも、どこまでも正確に刺激される感覚に、身体が勝手に反応する。すぐに止めず、さっきよりもゆっくりと続ける。皮膚の薄いところを選んで。例えば、首筋や鎖骨。執拗に棘を肌に食い込ませる。動かせない手足を必死に震わせ、ベッドの上でのたうち回る奴隷。まるで芋虫のように。極限の中で苦悶する奴隷にふさわしい姿。どこまでが痛みで、どこからが悦びなのか。その境界線すら曖昧になった奴隷は、私を見つめて真っ直ぐに指を伸ばした手を合わせた。ただの服従ではない静かな敬意の眼差し。

傷も苦しみも幸福となる倒錯した私の支配下。奴隷の姿は滑稽どころか、透き通るくらい綺麗で純粋に感じる。こういう瞬間に出会えるからこそ、私は奴隷を育てる。倒錯した支配の中でしか生まれない、狂った侘び寂びを見つけたくて。
楽しい時間をありがとう。


5月からHPをリニューアルするので、着々と改修を進めています。とびきり張り切ったサイトに仕上げるつもりです!なので、このブログ公開日の4/25~5/1までは篭ってひたすら作業になりそうです。5/22~6/6まで完全に予約休止になります。調教日は限られているのでご予約はお早めに。

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